這いずる音
息を潜めて、静かに静かに。
かすかな、幽かな音がする。
「おかあさん」
並んで眠っている母に声をかけようとするが、声が出なかった。
「おとうさん」
母の向こうで寝息をたてている父を呼ぶこともできなかった。
夏なのに、体が冷たい。
ぴくりとも動かない。
強く、強く、痛いほどに目をつむる。
怖い。
怖い怖い怖い怖い。
ふわり。
生暖かい風が開けたままの窓からカーテンを揺らす。
月の無い夜。
すうっ、と、息が楽になり、気配が消えた。
金縛りにあっていた体に力が入る。
おかあさんっ!
声に出さずに母のタオルケットの端をつかんだ。
母は起きなかった。
けれど千尋は少し安心して、やっと、眠った。