A6notes

雑記帳に書くように、気軽に書いています。

這いずる音

息を潜めて、静かに静かに。

かすかな、幽かな音がする。

「おかあさん」

並んで眠っている母に声をかけようとするが、声が出なかった。

「おとうさん」

母の向こうで寝息をたてている父を呼ぶこともできなかった。

夏なのに、体が冷たい。

ぴくりとも動かない。

強く、強く、痛いほどに目をつむる。

怖い。

怖い怖い怖い怖い。

ふわり。

生暖かい風が開けたままの窓からカーテンを揺らす。

月の無い夜。

すうっ、と、息が楽になり、気配が消えた。

金縛りにあっていた体に力が入る。

おかあさんっ!

声に出さずに母のタオルケットの端をつかんだ。

母は起きなかった。

けれど千尋は少し安心して、やっと、眠った。